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企業の定性分析【3つの定性分析フレームワーク】

企業の定性分析【3つの定性分析フレームワーク】

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企業を分析する際は、定量的な分析(財務分析など)に加えて、定性的な企業の強み等を分析することも定量分析と同じくらい重要です。

定性分析をすることで、強い製品や強いブランドを持つ企業を見極めることができ、企業の真の実力を把握することができるからです。

NIKEやコカ・コーラ等の強いブランドは、なくなることが想像すらできないほど強いブランドであり、それゆえ競争力が非常に高いです。

今回はMBAでも習う様な経営学的な側面から、難しい定性分析を誰でも可能にする方法を紹介していこうと思います。

目次

定性分析でどんなことが分かるか?

定性分析で分かることは、企業の強みや弱み市場でのポジション(競合製品と比べてどのポジションにいるか)など、競争優位の源泉と呼ばれるものです。

誰でもできるような再現性があるものでなくてはいけないので、今回は定性分析を行うためのフレームワークにフォーカスしたいと思います。

今回扱うフレームワークはこちらの3種類です。

SWOT分析とは?

企業の状況を内部環境(強み、弱み)と外部環境(機会、脅威)という4つの側面から見て分析を行う方法です。

外部環境的にチャンスがあるか、独自の強みが外部環境にマッチしているか等を俯瞰的に判断することが可能です。
また、弱みや脅威に対して効果的な対策をしているかを分析することで、継続的に成長していけそうな企業かを分析することができます。

具体的なSWOT分析事例は下記をご参照ください。

マーケティングの4Pとは?

企業が顧客との関係性を創造して維持していくことをマーケティングと呼びますが、マーケティングは4P「Product」「Price」「Place」「Promotion」の4つのカテゴリに沿って行っていくものです。
この4Pが相互に整合性を持ったものでなくては成功しないため、4Pが内的一貫性を持つ必要があります。

ですが、内的一貫性があっても外部環境とあったものでなくてはいけないので、外的な一貫性も保つ必要があります。

例としてRIZAPを例にマーケティングの4Pを考えてみます。

  1. ボディメイクスタジオという新しい業態(Product)
  2. アクセスし易い都市部で展開している(Place)
  3. 2ヶ月で30万円弱の会費(Price)
  4. 著名人を使ったインパクトがある分かりやすい広告(Promotion)

このような手法の場合、Promotin活動には個別対応が求められそうですが、広告が非常に分かりやすい内容であったことから、4P相互の整合性は保たれていると考えられます。

また、結果にコミットするという新しい業態であり、ダイエットに失敗してきた消費者にとって魅力的であったことから、外部環境とも整合性があり、結果として爆発的に人気が出たと考えられます。

RIZAPのように内的&外的整合性があるマーケティング活動を行うと、大成功できる可能性があるというのがよくわかります。

内的一貫性や外的一貫性等の『マーケティングの基本』をきちんと理解したい場合は1冊本を読むのがいいかと思います。

ファイブフォース分析とは?

企業が置かれた環境とその業界の強みや弱みを5つの観点から分析する手法です。

5つの観点は以下の通りです。

  1. 新規参入
  2. 競合
  3. 代替品
  4. 供給者
  5. 購入者

理想はすべての項目において自社が強い状態ですが、それは非常に難しいので、それぞれの項目に対してどのような対策をとっているかをみるのが大事です。

以下で一つずつ解説していきます。

新規参入

例えば新規参入が容易な業界は参入が激しく、値下げ競争が活発に行われていると考えられるので、差別化できない限り『利益率が低い=儲かっていない』ことが多いです。

参入障壁が低い代表的な業種は飲食店などが代表的です。

競合

競合が強い場合、製品で差別化をする等しないと企業が発展するのはなかなか難しいと思われます。

今から新しいコーラっぽい商品を作っても儲からないということです。

代替品

代替品が見つかるものは長期的に販売&拡大していくのが難しいです。
なぜなら、代替品が急に値下げ等をしてきてもビジネスモデルが異なるので同じ対応ができません。

最近の代替品でいうと、電子書籍と書籍などが挙げられます。

電子書籍は値段を下げるのも簡単ですが、書籍はコピー代、紙代とか色々あり、すぐの値引きは難しく、競争力が低下してしまいます。

供給者

供給者(仕入先)の力が強いと、利益を出すことが難しくなってしまいます。

仕入先が少ないなどで供給者の力が強い場合、その仕入先の言う通りにしなければ企業活動ができなくなってしまいますので、価格交渉力等が弱くなり結果的に低利益体質になります。

購入者

購入者(販売先)の力が強いと、競争力が落ちてしまいます。

販売先が少ない場合も供給者の脅威が大きいときと同様に低利益体質になりがちです。

定量的にも分析可能?

ここまで、定性分析の方法を挙げてきましたが、技術力やブランド価値等の定性面の強みは定量的にな結果として出てきます。

例を挙げると、下記のようになります。

売上原価率

商品の力が表れるのが売上原価率です。
なぜかというと、技術力のある商品やブランド価値のある商品は、原価に比べて商品価格が高くても、消費者にとって価値があるからです。

例えば、ブランド力がある商品は、ブランドのプレミアム価値を付加しても商品を販売することが出来ます。
また、技術力や独創性のある商品は、他社との差別化を図れるので価格を上げても商品を販売できます。

従って、価値ある商品を提供している企業の売上原価率は、類似商品を販売している企業の売上原価率よりも低いということになります。
この様な特徴を持つ企業は、技術力やブランド価値が毀損されない限り、安定した収益基盤を確保できていると言えます。

特許

商品の特性によっては、特許を申請している場合があります。
特許も非常に強力な競争優位性です。

医薬品業界は特許がビジネスに強力に作用している最たる業界で、製薬企業は各々の研究開発を通して新薬を開発し、その特許を取ることで他社に対してビジネス上の優位を確立しています。
なぜなら、十年以上に渡る法律上の保護を得ているからです。

従って、大ヒットした薬剤の特許を多数保有している製薬企業は、今後十数年に渡って安定した収益基盤を確保していると言えます。(※同種の新薬が出てこない限りです)

そもそもビジネスモデルを理解しなければいけない

上記の定性分析を行う際に必須なのが、分析企業のビジネスモデルをあらかじめ理解することです。

色々なビジネスモデルがあるので、全てを理解するのはそう簡単ではありませんが、こちらの書籍では様々なビジネスの構造がわかりやすく書かれています。

また、ビジネスモデル+戦略という目線ですが、具体的な企業の具体的な戦略が描かれているこちらもかなり面白く読める一冊になっています。

まとめ

今回は定性分析のフレームワークを3つ紹介しましたが、この他にも外部環境も含めて分析するPEST分析バリューチェーン分析等、様々な定性分析手法があります。

定性分析は奥が深く正解がないですが、定量分析と合わせて企業を分析することで、その企業の真の競争力や強み・弱みが把握できます。

まずは、自分がやりやすい分析を興味のある企業でやってみてはいかがでしょうか。

花王のSWOT分析をしてみました【SWOT分析の例】

花王のSWOT分析をしてみました【SWOT分析の例】

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花王のSWOT分析

今回は花王の分析をSWOTを中心に行っていきます。

SWOT分析の利用価値は現状分析そこから考えられる戦略の策定です。
それによってより合理的で成功確率の高いジャッジを下すことが出来るようになるでしょう。
そして、逆に言えば”成功した企業”の戦略は、当時の業界構造分析を行うことで”なぜ成功したのか”を解明することが出来ます。

ここでは昔から続く日本の大手企業である花王の分析を行いますが、その経営の変遷は非常に学びの多いものです。(※私のMBA時代に分析したものを紹介しています)

SWOTの観点から、花王がどの様に考えて、どの様に意思決定を下したことで、成功できたのかを、具体的に解説していきます。

目次

花王の企業概要:そもそも花王とはどんな会社か?

花王の概要

花王は東京都中央区日本橋茅場町に本社を置く国内大手化学メーカーであり、トイレタリー用品、化粧品、食品などを製造しています。
同社はトイレタリー業界では国内首位であり、化粧品でも国内で1、2を争う程のシェアを持つ日本のトップ企業です。

2016年現在、花王の事業内容は多角化しており、大きく分けて

  • 「ビューティケア事業」
  • 「ヒューマンヘルスケア事業」
  • 「ファブリック&ホームケア事業」
  • 「ケミカル事業」

の4つの事業があります。

花王の売上の40%を占める4つの事業の中で最も大きいのが「ビューティケア事業」です。
化粧品やスキンケア、ヘアケアなどの商品の事業で、代表的なブランドとしては、化粧品ではソフィーナ、カネボウ、モルトンブラウン、スキンケア製品としては、ビオレ、ニベア、キュレルなどが挙げられます。
ヘアケア製品では、ケープ、メリット、フローネ、アジエンス、エッセンシャルなどがあります。

「ヒューマンヘルスケア事業」は、健康機能飲料やサニタリー製品などを管轄しており、クリアクリーン、ヘルシア緑茶、パブ、メリーズパンツなどを扱っている事業です。

「ファブリック&ホームケア事業」では、衣料用洗剤や住居用洗剤などを扱っており、アタック、ハミング、ワイドハイター、バスマジック琳などのブランドがあります。

「ケミカル事業」は工業用化学製品なので一般の方にはあまり馴染みはありませんが、インクジェットプリンター用インクや、香料や油脂アルコールなどを手掛ける事業となっています。

化粧品事業に関して

ここで取り上げる化粧品事業は花王のビューティケア事業のうちの1事業です。

化粧品事業の売上は、ビューティケア事業の現在全体の約40%を占めています。(つまり全体の約16%です)
代表的なブランドが花王ソフィーナです。
これは1982年の販売開始から今なお残る自社育成ブランドです。

花王が化粧品事業に本格的に参入し、化粧品業界で存在感が出てきたのは1980年代で、この花王ソフィーナの販売開始が契機となっています。
2006年には当時花王に次ぐ国内シェアを誇っていたカネボウ株式会社の株式を取得し、同社及びそのグループ会社を子会社化しました。
これによって売上高ベースでは、国内化粧品市場は、実質的には資生堂と花王の2トップ状態になりました。

化粧品事業での成功と当時のSWOT分析

当時のSWOT分析

花王が初めて化粧品を発売したのは、1900年の化粧水二八水ですが、化粧品事業に本格参入できたのは、1982年に花王ソフィーナを発売してからです。
この花王ソフィーナは、発売年の売上高は12億円で毎年順調に増え、1986年には245億円に達し、1988年位は400億円を超え、基礎化粧品では10%を超えるシェアを達成しました。

なぜ花王のソフィーナによる化粧品市場への参入が成功したのでしょうか?
この要因をSWOT分析を通じて解明してゆきます。

まず参入当時の花王のSWOT分析を行なうと次の以下の様にまとめることが出来ます。
①Strength(強み)
1980年代当時、花王は既に日用品トイレタリーメーカーとして国内トップの企業でした。
それらの開発の過程で築き上げた研究開発技術力や、日用品のための販売チャネル・原料調達チャネルを花王は既に社内に持っていました。これらは花王の大きな強みです。

花王は参入当時から国内トップの資生堂に十分対抗できるだけの事業規模を持っており、その日用品メーカーとして長く培ったドラッグストアなどの日用品販売チャネルの強みや、原料調達チャネルは、競合にとっては模倣コストが比較的大きいため、競争優位の源泉となりえたと考えられます。
また化粧品に関しては研究開発を積み重ねており、化粧品基材の開発も既に完成さていました。

②Weakness(弱み)
一方、当時の花王は日用品トイレタリーメーカーのイメージが強く、化粧品に関してはブランド力はありませんでした。
「美しくなる」事が重要とされる化粧品において「華やか」なイメージは非常に重要だったのですが、その点については大きく後れを取っていました。

③Opportunity(機会)
機会としては、化粧品市場の成長が挙げられます。
化粧品市場は、戦後の生活の欧米化や女性の社会進出に伴い、急速に伸びていました。
その伸びは1970年代に入っても続き、1980年には成長は鈍化するものの依然として伸び続けており、非常に魅力的なマーケットでした。

④Threat(脅威)
脅威としてはやはり競合の脅威が挙げられます。
当時は資生堂やカネボウが化粧品のトップブランドとしての地位を確立しており、華やかなブランドイメージを持っていました。


この状況下で花王がどのような戦略で化粧品事業への参入に成功したのでしょうか。
この分析を見る限り、競合の強さに対して、真っ向勝負では苦戦を強いられることが予想されます。
しかし、花王は化粧品市場で活かせる強みは持っていました。

花王の事業戦略(化粧品事業への参入)

ThreatとWeaknessを理解し、Strengthを活かした戦略

花王はこの状況下にて独自のブランド基礎化粧品「ソフィーナ」を開発し、化粧品事業へ本格的に参入し、成功を納めました。
この際、花王のとった戦略は差別化戦略です。

花王ソフィーナは、従来の化粧品の一般的な考え方であった「化粧品によって美しく変身する」ことではなく、肌にとって刺激になる物質を除いて、肌そのものの機能を高める化粧品を志向し、競合他社との差別化を図りました。
つまり花王はソフィーナを、従来の化粧品ブランドの主流であった”華やかさ”での勝負を避け、強みである技術を前面に出し、商品の機能を強調して基礎化粧品の分野に進出したのです。

例えば、テレビコマーシャルにおいては資生堂やカネボウは女優を使って華やかなイメージを顧客にアピールしていました。
一方、花王はあえて女優を使わず、卵の表面にファンデーションを付け、リキッドファンデーションとパウダーファンデーションを重ね塗りした方が、綺麗につくことを遡及するといったコマーシャルを放送しました。

これは逆に、華やかなブランドイメージを持たない花王だからこそ出来るものであり、既存の華やかなブランドイメージを持つ資生堂やカネボウなどの競合他社にはブランドイメージからも真似できない戦略でした。
そしてこの戦略が見事にハマり、花王は化粧品市場に大きく食い込む事が出来たのです。

用意されたStrength

また、花王は単に日用品メーカーとしての技術力があるだけではなく、化粧品事業の本格参入前から実は研究開発を積み重ねてきていました。

具体的には花王は1968年にバイヤスドルフ社(独)と提携して化粧品技術研究開始しており、その後1976年に皮膚研究室・医薬品研究室を開設、1978年には化粧品新基材の開発をしています。

これらの下準備があったからこそ、開発された「ソフィーナ」は従来の化粧品とは一線を画すものとなり、他社とは異なる差別化戦略が取れたと言えます。

持続的な技術の優位性

そして、この技術の優位性を維持し、参画後も持続的に技術の優位性を保てる強さがあったことも成功の要因です。

花王は「ソフィーナ」を日用品メーカーとして培った技術力と結びつけ、さらに改良し続けることで優位に立つことが出来ました。

具体的には、花王の生物化学研究所は「セラミド」が皮膚の保湿に重要な役割を果たしていることを発見し、同社のスキンケア研究所は、この知見を元に、セラミドをスキンケア商品に配合した新商品を考案しました。
しかし、セラミドそのものの生産は技術的に確立されておらず、また天然のセラミドは存在量が少なく高価で、化粧品生産への安定供給は困難でした。

そこで素材開発研究所で、コンピュータ・ケミストリーによる分子設計技術を用いてセラミドと極めて性質の似た物質「スフィンゴリビットE」(SLE)の量産を実現しました。
これにより、花王は1987年にSLEを配合したクリームを「ソフィーナ」ブランドで新しく発売することができたのです。

このような研究開発の連鎖は、日用品メーカーとして培った研究開発力があってこそ実現できたものでした。
これは他の競合他社では再現することの難しい、まさに非常に大きな強みとなっていたと言えます。
(VRIOの点から見ても、「価値があり、希少で、模倣されにくく、組織として活用できる」経営資源であると言えます)

まとめ

過去の事例分析を通して要因を学ぶ

花王の化粧品事業への参入が成功したのは、化粧品市場の拡大という機会の中で、競合と弱みとなる部分での勝負を避けて強みとなる部分を活かし、既存の大手競合と差別化をすることによるものだと言えます。
そして、そのために事前に自社の強みを強化して用意していたことと、その強みが他社には簡単に真似できず、継続して優位に立てていた事も成功の要因だったと言えるでしょう。

いかがでしたでしょうか。
今回は花王の化粧品事業への参入と成功要因を、SWOT分析を用いて解説しました。
私のMBA時代(2016年頃)に分析したものですが、過去の事例を分析することで、花王の戦略の変遷や意思決定の軌跡を追うことができました。

フレームワークは本で説明を読むとなんとなくわかった気分になったりできると思います。しかし、本当に使いこなすにはやはり具体例に触れることや、自分で実際にやってみるのが一番ですね。

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