ディレクト・データ

アンケート設計の基本

 アンケートは、正確なデータ収集と適切な意思決定を支える重要な手段です。現在では、Googleフォームなど無料で使えるツールを利用して簡単に作成できるため、顧客満足度調査などに活用するケースも増えています。

 一見すると、アンケート設計は誰でも簡単にできそうに思えます。しかし、設計が不十分だと回答者に混乱を与えたり、信頼性の低いデータを生む原因になります。その結果、意思決定を誤ったり、後から「質問の仕方を変えておけばよかった」と後悔してやり直すことも少なくありません。

 本記事では、効果的なアンケートを作成するための具体的なポイントを解説します。特に設問文の作り方、質問の構成や順序、回答形式の選び方、さらに回答率を上げる工夫に焦点を当てます。これからアンケートを設計する方や、既存のアンケートを改善したい方に、役立つヒントをお届けします。

 ここでは具体的にイメージしやすい様に、「飲食店」での顧客に向けたアンケートを例に解説します。

①曖昧な表現・紛らわしい表現を避ける

 曖昧な表現や紛らわしい表現を避けることはアンケート設計における基本的なポイントですが、実務ではつい見過ごされてしまうことが少なくありません。

 たとえば、以下の様な設問を挙げてみます。

Q:あなたは飲食店でよく外食しますか?
 A:「
はい/いいえ」

 この設問は、一見すると問題ないように思えますが、実際には「よく外食する」という表現が曖昧で、回答者によって解釈が異なります。このような曖昧さが回答の信頼性を損なう原因となります。

 さらに、以下のような設問について考えてみましょう。

Q:あなたは飲食店でどの程度外食しますか?
 A:「
常に外食している/よく外食している/時々外食している/たまに外食している/全く外食していない

 このような設問は一見問題ない様に見えますが、実際には「よく」「時々」「たまに」といった表現が曖昧であり、人によって解釈が異なります。また、「常に外食している」という選択肢に関しても、「朝昼晩すべて外食する」と解釈する人もいれば、「毎日1回は外食する」と考える人もいるかもしれません。

 そこで、以下のように具体的な基準を示す設問に変更することで、解釈のばらつきを抑えることができます。

Q:あなたは飲食店でどの程度外食しますか?
 A:「
毎日1回以上外食している/毎日ではないが週3回以上外食している/週に1~2回程度外食している/月に1~2回程度外食している/全く外食していない

 このように明確な頻度を示すことで、回答者の解釈の違いを最小限に抑え、信頼性の高いデータを得ることができます。

②重複否定を避ける

 重複否定とは「〇〇しないことをしない」というような表現で、設問文の理解を妨げ、回答者が混乱する原因となります。

 例えば、次のような設問が重複否定の例です。

  • Q:「当店でメニューが品切れで頼めなかったことはありませんでしたか?」
    A: はい/いいえ 

 この場合、「頼めなかった経験が無かった場合に『はい』」となり、「あった場合に『いいえ』」という反応になります。答えは理論的には可能ですが、重複否定が含まれることで、混乱して誤った回答をする恐れがあります。

 そのため、設問を以下のように変更した方がより明確です:

  • Q:「当店でメニューが品切れで頼めなかったことはありましたか? 」
    A: はい/いいえ 

 この場合、「頼めなかった経験があった場合に『はい』、なかった場合に『いいえ』」とシンプルに答えることができます。

 冷静に考えればどちらの設問でも答えられますが、回答者の集中度や理解の程度に差があるため、なるべく混乱を避ける設問にすることが重要です。 

 

③1つの設問は論点を一つに絞る

   一つの質問で複数の論点を聞く設問は、回答者に混乱を招き、正確なデータ収集を妨げるため避けるべきです。例えば、次のような設問では、見た目と味という異なる要素が一つの質問に含まれているため、問題が生じます。

  • Q:「本日の料理の見た目や味はどうでしたか? 」
    A: 満足/普通/不満 

 この設問の場合、見た目も味も満足している場合には「満足」と答えられますが、味には満足していても見た目は普通だと思っている場合、回答者はどちらを選べば良いか迷ってしまいます。その結果、回答にばらつきが生じる可能性があります。
 また分析する際にも味の評価なのか、見た目の評価なのか明確に分からない事でビジネスレビューにも活かしにくくなっています。

 このような問題を避けるため、次のように設問を分ける方が適切です:

  • Q1:「本日の料理の見た目はどうでしたか? 」
    A: 満足/普通/不満

  • Q2:本日の料理の味はどうでしたか?
    A: 満足/普通/不満

  ただし、総合的な満足度を知りたいというニーズがある場合もあります。たとえば、見た目と味を総合的に評価して満足しているかどうかを確認したい場合、次のように設問を設計することも考えられます:

  • Q1:「本日の料理の総合満足度を教えてください 」
    A: 満足/普通/不満

  • Q2:本日の料理の見た目はどうでしたか?
    A: 満足/普通/不満

  • Q3:本日の料理の味はどうでしたか?
    A: 満足/普通/不満

 この方法で、最初に総合的な満足度を確認し、その後に個別の要素(見た目、味)を聞くことで、両方の情報を得ることができます。 

 とはいえ実務上は回答者の負担や調査コストを踏まえた上で、設問数が多くなり過ぎるのを避けるために、仕方なく総合評価のみを聞く設問のみにするケースも実際にはあるでしょう。その際には、「本当にこのデータでビジネスレビューする際に問題が無いかどうか」を一度深く、検討してみることをお勧めします。

④回答の誘導・公平性に気を付ける

  アンケートは、同じような質問でも聞き方次第で、人によって全く逆の回答を引き出してしまうことがあります。心理学的にはこれを「フレーミング効果」と呼び、同じ情報でも伝え方や表現によって印象が変わり、意思決定に影響を与える現象です。

もちろん、「全く誘導しないフェアな表現」を実現するのは難しく、何かしらのバイアスがかかってしまうことが多いです。そのため、誘導しないように気を付けるだけでなく、「この設問でどんな誘導が行われているか?」や「その誘導が問題を引き起こさないか?」という点についても十分に考慮する必要があります。

 有名な例の一つに「ポジティブな表現か、ネガティブな表現か?」があります。例えば、メニュー刷新の効果を測定する際に、次のような設問を考えてみます。

  • Q:「メニューの刷新により、従来よりメニューが見やすくなったと思いますか?」
    A: 「はい / いいえ」

  • Q:「メニューの刷新がありましたが、従来よりメニューが見にくくなったと思いますか?」
    A: 「はい / いいえ」

 ポジティブに表現すれば、肯定的な回答が得られやすく、ネガティブに表現すれば否定的な回答が得られやすくなります。

 また「背景説明を丁寧に行うこと」も誘導になってしまうことがあります。それによって、回答者を納得させてしまい回答を誘導してしまうこともあります。例えば次のような質問です。

  • Q:「新しいメニューではジャンル別に並べるようにしました。このメニューの刷新により、従来よりメニューが見やすくなったと思いますか?」
    A: 「はい / いいえ」

 メニューの並び順を工夫したことを説明することで、顧客にそれを理解させ、利便性が向上したと納得させてしまいます。これにより、回答者は元々意識していなかった点に注目し、さらに肯定的な回答をしやすくなります。

まとめ

  アンケート設問を作成する際には、回答の質を高めるためにいくつかの重要なポイントに気を付ける必要があります。ここではアンケート設計の4つの基本的な事項を紹介しました。

 まず、曖昧な表現や紛らわしい表現を避けることが重要です。具体的で明確な言葉を使うことで、回答者が意図する内容を正確に理解しやすくなります。次に、重複否定を避けることで、回答者が混乱するのを防ぎます。二重否定があると、意図した質問の意味が伝わりづらくなります。さらに、1つの設問は論点を1つに絞ることが大切です。複数の要素を含む質問は、回答者が一貫した回答をするのを難しくし、結果として不正確なデータを得る原因になります。最後に、回答の誘導を避け、公平な表現を使うことが必要です。特定の回答を引き出さないように出来るだけ配慮しつつ、バイアスを意識してデータを解釈することが重要です。

 これらのポイントを意識することで、より正確で信頼性の高いアンケート結果を得ることができ、調査の目的に沿った有益なデータを収集することが可能になります。

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独り言好きなデータサイエンティスト

経営学や統計の知識から、日常的な気になる数学の雑談などの独り言をこのブログにつらつら書いています。
経営学は特にデータサイエンスの解釈の幅を広げる重要なスキルなので、データサイエンティストを目指すような方にも読んでもらえるといいかもしれません。

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