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倍プッシュのリスクを数字で考える【マルチンゲール法】

倍プッシュのリスクを数字で考える【マルチンゲール法】

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ギャンブルや投資において負けない戦略として、マルチンゲール法は非常に有名です。

マルチンゲール法という言葉は知らずとも、
その中身を知っている方は多いのではないでしょうか?

目次

マルチンゲール法とは?

 マルチンゲール法とは簡単にいうと、”1/2の確率で勝てば賭け金が倍、残りの1/2の確率で0になる、という様な賭けにおいて、”負けた場合にはその前に賭けた額の倍を賭ける”という方針で行えば負けることはない。”という必勝法です。

 例えば、1回目で100万円を賭けて負けてしまっても、2回目で倍の200万円を賭けて勝てばトータルでは+100万(1回目のマイナスー100万+2回目のプラス200万)となり1回目の損も取り返せます。
 同様に、2回目で負けてしまっても3回目でさらに倍の400万円を賭けて勝てばトータルでまた+100万(1回目のマイナスー100万ー2回目のマイナス200万+3回目のプラス+400万)となりこれまでのマイナスの全てを取り返せます。

 もちろん、この必勝法には有名な弱点があります。それは、”資金は無限ではない”という点です。たとえば元から300万円しか持っていなかった場合は先ほどの例では2回しか賭けることができず、2回目で失敗した場合有り金全てを失うことになってしまうのです 。

マルチンゲール法の魅力

 しかし、それでもなおマルチンゲール法には魅力があります。それは資金は無限ではなくとも、数回この戦略で回せる余力があればかなり高い確率でプラスの収益を得ることができるからです。

 例えば700万円のお金を用意して、100万円から賭けをスタートするとします。”一度でも勝ったら賭けを終了する”と決めて賭けた場合、87.5%の勝率で+100万円を得ることができます。

 そう聞くと、9割近くの確率で100万円増やせるならやってみたい!!という気持ちになってしまいますよね。

 これがマルチンゲール法の魅力です。

必勝法なのに期待値は0の戦略

 しかし、マルチンゲール法が期待値の高い戦略かというとそうではありません。実は期待値を計算すると0になります。それもそのはず、もともと期待値0の賭けにどう参加するかどうかだけなのですから、期待値が変わることはありません。

 先ほどの700万用意して100万を賭ける例で実際に損益の期待値を計算してみると  

 87.5%×100 – 12.5%×700 = 0

 そして期待値0なのは資金をどれだけ多く用意しても同じです。負けても倍でかけられる回数が増えれば増えるほど、利益を得られる確率は高くなりますが、その分だけ負けた時の損失が雪だるま式に増えていってしまうのです。

収益率から冷静に考えてみる

 とはいえ、ほとんど負けないんだから大丈夫だろう、自分は勝ち逃げするから大丈夫と多くの人が思い、数々の人が失敗しているのも事実です。

 このマルチンゲール法を冷静にみる見方として”収益率”という見方を私はお勧めします。

 それは、”マルチンゲール法で狙う収益率を、用意している資金に対して何%とするか?”と考えることです。

 先ほどの700万円の例では用意している資金700万円に対して狙う収益は100万円なので

 100万/700万 = 14.3%が狙う収益となります。

 つまりこの賭けは、”87.5%の確率で14.3%の利益を得ることができるが、12.5%の確率で全てを失う賭けである”とも言い換えることが出来ます。

 多少主観もあるかもしれませんが、『たかだか14.3%の利益のために、10回に1回以上全てを失う様な賭けをするなんて、、、』と個人的には結構ローリターン・ハイリスクな賭けに見えます。

 ちなみに、目標利益と損失を得られる確率、利益を得られる確率の推移は次の様になっています。

 

 実はマルチンゲールで得られる収益率と、有金全てを失う確率の数字は回数を重ねれば重ねるほど、ほぼ同じになるんですね。

 例えば6.67%の利益を狙ってマルチンゲール法を行うと、破産リスクも6.25%と大体同じくらいになります。

結論

 マルチンゲール法は破産確率≒収益率となる手法です。

 投資においても、損をした時に大きく投資して損を取り返そうとする様な状況になることは少なくないと思います。その際は是非このマルチンゲール法の話を参考に、冷静に投資の意思決定ができる様になれば幸いです。

企業の定性分析【3つの定性分析フレームワーク】

企業の定性分析【3つの定性分析フレームワーク】

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企業を分析する際は、定量的な分析(財務分析など)に加えて、定性的な企業の強み等を分析することも定量分析と同じくらい重要です。

定性分析をすることで、強い製品や強いブランドを持つ企業を見極めることができ、企業の真の実力を把握することができるからです。

NIKEやコカ・コーラ等の強いブランドは、なくなることが想像すらできないほど強いブランドであり、それゆえ競争力が非常に高いです。

今回はMBAでも習う様な経営学的な側面から、難しい定性分析を誰でも可能にする方法を紹介していこうと思います。

目次

定性分析でどんなことが分かるか?

定性分析で分かることは、企業の強みや弱み市場でのポジション(競合製品と比べてどのポジションにいるか)など、競争優位の源泉と呼ばれるものです。

誰でもできるような再現性があるものでなくてはいけないので、今回は定性分析を行うためのフレームワークにフォーカスしたいと思います。

今回扱うフレームワークはこちらの3種類です。

SWOT分析とは?

企業の状況を内部環境(強み、弱み)と外部環境(機会、脅威)という4つの側面から見て分析を行う方法です。

外部環境的にチャンスがあるか、独自の強みが外部環境にマッチしているか等を俯瞰的に判断することが可能です。
また、弱みや脅威に対して効果的な対策をしているかを分析することで、継続的に成長していけそうな企業かを分析することができます。

具体的なSWOT分析事例は下記をご参照ください。

マーケティングの4Pとは?

企業が顧客との関係性を創造して維持していくことをマーケティングと呼びますが、マーケティングは4P「Product」「Price」「Place」「Promotion」の4つのカテゴリに沿って行っていくものです。
この4Pが相互に整合性を持ったものでなくては成功しないため、4Pが内的一貫性を持つ必要があります。

ですが、内的一貫性があっても外部環境とあったものでなくてはいけないので、外的な一貫性も保つ必要があります。

例としてRIZAPを例にマーケティングの4Pを考えてみます。

  1. ボディメイクスタジオという新しい業態(Product)
  2. アクセスし易い都市部で展開している(Place)
  3. 2ヶ月で30万円弱の会費(Price)
  4. 著名人を使ったインパクトがある分かりやすい広告(Promotion)

このような手法の場合、Promotin活動には個別対応が求められそうですが、広告が非常に分かりやすい内容であったことから、4P相互の整合性は保たれていると考えられます。

また、結果にコミットするという新しい業態であり、ダイエットに失敗してきた消費者にとって魅力的であったことから、外部環境とも整合性があり、結果として爆発的に人気が出たと考えられます。

RIZAPのように内的&外的整合性があるマーケティング活動を行うと、大成功できる可能性があるというのがよくわかります。

内的一貫性や外的一貫性等の『マーケティングの基本』をきちんと理解したい場合は1冊本を読むのがいいかと思います。

ファイブフォース分析とは?

企業が置かれた環境とその業界の強みや弱みを5つの観点から分析する手法です。

5つの観点は以下の通りです。

  1. 新規参入
  2. 競合
  3. 代替品
  4. 供給者
  5. 購入者

理想はすべての項目において自社が強い状態ですが、それは非常に難しいので、それぞれの項目に対してどのような対策をとっているかをみるのが大事です。

以下で一つずつ解説していきます。

新規参入

例えば新規参入が容易な業界は参入が激しく、値下げ競争が活発に行われていると考えられるので、差別化できない限り『利益率が低い=儲かっていない』ことが多いです。

参入障壁が低い代表的な業種は飲食店などが代表的です。

競合

競合が強い場合、製品で差別化をする等しないと企業が発展するのはなかなか難しいと思われます。

今から新しいコーラっぽい商品を作っても儲からないということです。

代替品

代替品が見つかるものは長期的に販売&拡大していくのが難しいです。
なぜなら、代替品が急に値下げ等をしてきてもビジネスモデルが異なるので同じ対応ができません。

最近の代替品でいうと、電子書籍と書籍などが挙げられます。

電子書籍は値段を下げるのも簡単ですが、書籍はコピー代、紙代とか色々あり、すぐの値引きは難しく、競争力が低下してしまいます。

供給者

供給者(仕入先)の力が強いと、利益を出すことが難しくなってしまいます。

仕入先が少ないなどで供給者の力が強い場合、その仕入先の言う通りにしなければ企業活動ができなくなってしまいますので、価格交渉力等が弱くなり結果的に低利益体質になります。

購入者

購入者(販売先)の力が強いと、競争力が落ちてしまいます。

販売先が少ない場合も供給者の脅威が大きいときと同様に低利益体質になりがちです。

定量的にも分析可能?

ここまで、定性分析の方法を挙げてきましたが、技術力やブランド価値等の定性面の強みは定量的にな結果として出てきます。

例を挙げると、下記のようになります。

売上原価率

商品の力が表れるのが売上原価率です。
なぜかというと、技術力のある商品やブランド価値のある商品は、原価に比べて商品価格が高くても、消費者にとって価値があるからです。

例えば、ブランド力がある商品は、ブランドのプレミアム価値を付加しても商品を販売することが出来ます。
また、技術力や独創性のある商品は、他社との差別化を図れるので価格を上げても商品を販売できます。

従って、価値ある商品を提供している企業の売上原価率は、類似商品を販売している企業の売上原価率よりも低いということになります。
この様な特徴を持つ企業は、技術力やブランド価値が毀損されない限り、安定した収益基盤を確保できていると言えます。

特許

商品の特性によっては、特許を申請している場合があります。
特許も非常に強力な競争優位性です。

医薬品業界は特許がビジネスに強力に作用している最たる業界で、製薬企業は各々の研究開発を通して新薬を開発し、その特許を取ることで他社に対してビジネス上の優位を確立しています。
なぜなら、十年以上に渡る法律上の保護を得ているからです。

従って、大ヒットした薬剤の特許を多数保有している製薬企業は、今後十数年に渡って安定した収益基盤を確保していると言えます。(※同種の新薬が出てこない限りです)

そもそもビジネスモデルを理解しなければいけない

上記の定性分析を行う際に必須なのが、分析企業のビジネスモデルをあらかじめ理解することです。

色々なビジネスモデルがあるので、全てを理解するのはそう簡単ではありませんが、こちらの書籍では様々なビジネスの構造がわかりやすく書かれています。

また、ビジネスモデル+戦略という目線ですが、具体的な企業の具体的な戦略が描かれているこちらもかなり面白く読める一冊になっています。

まとめ

今回は定性分析のフレームワークを3つ紹介しましたが、この他にも外部環境も含めて分析するPEST分析バリューチェーン分析等、様々な定性分析手法があります。

定性分析は奥が深く正解がないですが、定量分析と合わせて企業を分析することで、その企業の真の競争力や強み・弱みが把握できます。

まずは、自分がやりやすい分析を興味のある企業でやってみてはいかがでしょうか。

【誰でも使える!】財務分析の方法5選

【誰でも使える!】財務分析の方法5選

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企業は様々な方法で利益を作っており、業態は自動車製造からITシステムの導入支援まで様々です。
では、どちらの方が『優秀な企業』と言えるのでしょうか?

優劣を決めるためには分析が必要です。

今回は定量分析の一つである財務分析について紹介していきます。

目次

財務分析の準備:財務三表とは?

財務分析とは企業から開示されている情報、特に『財務三表』に基づき分析を行う方法です。

まず財務三表とは

  1. 損益計算書
  2. 貸借対照表
  3. キャッシュフロー計算書

の3つを指します。

損益計算書

企業の稼ぎ出す利益等が記載されている諸表です。
売上高や営業利益、当期純利益等が載っており、会計的にはフロー部にあたります。

感覚的には企業の1年間の成績表といった感じです。

貸借対照表

企業のもつ資産や負債が記されています。
売掛金や固定資産が資産部分に、長期借入金等が負債部分に記載されています。

よく聞く『自己資本比率』も貸借対照表で計算できます。
企業のこれまでの成績結果といった感じです。

キャッシュフロー計算書

企業のお金自体の流れが記載されています。
キャッシュフロー計算書は以下の3つのカテゴリに分かれます。
  • 営業活動によるCF
恒常的な営業活動による現金の流れが記載されています。
したがって、『営業活動によるCF』は売上の入金があれば増加しますし、買掛金を支払った場合には減少します。
もちろんプラスの方がいい指標です!

  • 投資活動によるCF
投資活動(設備投資やM&A他)に伴う現金の流れが記載されています。
例えば機械の購入を行った場合には、現金支出がありますので『投資活動によるCF』は減少します。
マイナスの企業は資本を投下して積極的に成長しようとしている企業と言えるでしょう。

  • 財務活動によるCF
財務的な経営判断に伴う現金の流れが記載されています。
例えば、借入れを行った際は、現金が増えますので『財務活動によるCF』が増加します。
プラスであれば借入れ等が増加しており、マイナスであれば減少しているという捉え方です。
成長しようと投資をしている企業は、大幅なプラスであることが多いです。

具体的な財務分析の方法

ここからはより具体的に使える財務分析のテクニックや指数を紹介していきます。
色々な指数を紹介しますが、ある指数が優秀だからといって安心してはいけません。

指数の意味を理解し、業界にマッチする指数を使うことで、より正確に同業他社と分析することが可能です。

企業力指数

下記5つの指数の平均が企業力指数となります。
簡単なスクリーニングにぴったりの指数だと言えます。
詳しくは企業力指数とは?をご覧ください。

収益性分析

企業の収益の効率性を判断する指標です。
大きく分けて3種類の収益性分析方法がよく使われています。

ROA(総資本利益率):営業利益 ÷ 総資産

総資産をどれだけ効率的に活用して利益を出せているかを示す指標です。

設備投資が多い重厚長大な産業は低めの数値で、IT等は高めの数値が出ます。
ITの方が効率的と言えそうですが、逆に言えば、重厚長大な業界は圧倒的な資本投下が必要なので、その業種であること自体が参入障壁となっていると言えます。

ROE(自己資本比率):営業利益 ÷ 自己資本

自己資本に対してどれだけ効率的に稼げたかを示します。

企業のIR資料等でもよく見られる言葉で、ROEが高い=より効率的に資産を活用していると言えます。
ちなみに、日本企業のROE(ROAもですが)は海外に比べ総じて低いと言われています。

営業利益率:営業利益 ÷ 売上高

営業利益率を同業種で比較すれば、どちらが無駄なく経営されているかがわかります。

経常利益を用いないのは、営業外収益が入ってしまうからですが、投資会社のようになっている企業もありますので、そういう企業は経常利益で算出する方が理論的です。

安全性分析

企業の存続の安全性を判断する指標です。
大きく分けて4種類の安全性分析方法がよく使われています。

流動比率:流動資産 ÷ 流動負債

短期的な支払能力を測定する指標で、一般的に120%程度が望ましいと言われています。

流動比率が高ければ、短期支払能力が高いと言えるのでキャッシュが底をつき破綻という可能性が減少すると考えられます。
これよりもさらに厳しい基準にする際には『当座比率』という指標を用います。

現預金月商比率:現預金 ÷( 売上 ÷ 12 )

短期的にキャッシュが十分かを判断する指標です。

例えば、災害等で売上が0の期間があっても、現預金月商比率が十分にあれば経費を払ってもキャシュが底をつき破産という心配も少なくなります。

固定比率:固定資産 ÷ 自己資本

数式通りで、固定資産への投下資金と自己資本の比率をみるためのものです。

どれだけの割合が返済義務のない自己資本でカバーされているかを測ることで、財務上の安定性を観るのに役立ちます
なので、100%以下であるのが望ましいとされています。

自己資本比率:自己資本 ÷ 総資産

一番有名な指標です。
一般的には30~40%くらいあれば十分と言われています。

自己資本比率は高ければ借入が少なく健全と言えますが、個人的には高すぎるのもどうかと思います。
高すぎる自己資本比率=成長する意欲があまりない?とも考えられるからです。
現状維持は衰退と同義だと思いますので、適度な自己資本比率が良いと思っています。

成長性分析

企業の存続の安全性を判断する指標です。
大きく分けて3種類の成長性分析方法がよく使われています。

固定資産回転率:売上高 ÷ 固定資産

売上をつくるのに何回固定資産を回したかを示す指標です。

したがって、数値が高ければ効率的に固定資産を使って経営しているということになります。
逆に、この数値が何年間も低いままであれば、過剰な設備投資を行っていると言えますので、決して良いお金の使い方をしているとは言えませんし、今後も同じ傾向である可能性を考えると、キャッシュ面でも不安が残ります。

在庫回転率:売上高 ÷ 棚卸資産

在庫をどの程度持たずに経営しているかを示す指標です。

したがって、在庫が少ない会社はこの数値が高くなりますので、在庫の側面からは効率的に経営していると言えます。
加えて、在庫を少なくすることでCFが増加しますので、財務安定性面からも良い評価ができます。

財務レバレッジ:1 ÷ 自己資本比率

どれだけリスクをとって成長しようとしているかを示しています。

高ければ成長意欲は高いと言えますが、安定性は落ちていきます。
個人的には、これも適度な水準が良いと思っています。

キャッシュフロー分析

企業が存続するためにはキャッシュを十分に稼いでいる必要があります。
ここでは3種類のキャッシュフロー分析手法を紹介します。

売上債権回転率:売上高 ÷ 売上債権​

債権回収の効率性をみる指標で、数値が低いほど債権回収に時間がかかることを示しています。

飲食店等のキャッシュ業界は数値が高い傾向にあります。
この比率が低いと資金が拘束されるので、CF的には良くないということになります。

仕入債務回転率:売上原価 ÷ 仕入債務

売上債権回収率と同様に、支払いの効率性をみる指標で、数値は低いほど支払いに時間がかかることを示しています。

この数値が大きく低下している時は要注意です。
この数値の低下には

  • 支払い条件を良くしてもらった
  • 支払いができないので延ばしてもらっている
という2つの可能性が考えられるからです。

もし支払いを先延ばしにしている状態であれば、キャッシュが逼迫していると言えますので、企業の財務安定性を確認する必要があります。

売上債権回転期間・買入債務回転期間

  • 売上債権回転期間:売上債権 ÷(売上高 ÷ 365日)
  • 買入債務回転期間:仕入債務 ÷(売上原価 ÷ 365日)
債権と債務の回転期間を比較することで、営業上CFが必要な経営態勢かどうかがわかります。

買入債務回転期間>売上債権回転期間ならば、買掛金の支払前に売上が入ってきますので、究極的には赤字でもCF的には安定していると言えます。

財務分析のまとめ

よく使われる代表的な財務分析の指標をまとめてみましたがいかがだったでしょうか?

このように様々な財務分析指標がありますが、例えば「流動比率なら120%」という基準があります。
しかしこれが絶対の基準というわけではありません。
業種によっても基準は違いますし、投資等の一時的なキャッシュアウトにより、キャッシュフローが悪化しているケースもあります。

なので、業界に合わせた基準や、企業の個別状況も加味する必要があります。
これが、財務分析指標は簡単だけど奥が深いと言われる理由です。

実際にやってみるのが一番なので、いろいろな企業を分析して、感覚を養ってみてください。

ビジネス自体を分析できる定性分析に関してはこちらもどうぞ。

証券アナリストに独学・短期間で合格する方法

証券アナリストに独学・短期間で合格する方法

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今回は証券会社に勤めたこともないのに、なぜか証券アナリスト資格を有している筆者が、どのように効率的にアナリスト資格を取得したかを紹介していきます。

独学・短期合格へのまとめ

目次

証券アナリストとは?

証券アナリストは、日本証券アナリスト協会が認定している民間資格です。

主に証券会社や運用会社などに勤務している人が取得を目指す資格で、ガチガチの金融畑向けの資格と言えます。 そのため、ポートフォリオ理論やリスク管理、企業評価など専門性の高い知識が必要とされ、FP試験よりも専門性が高い資格と言えます。

さらに、証券アナリスト取得後には
  • 米国証券アナリストの取得
  • 国際公認投資アナリストの取得
などを目指すこともできます。
※国際公認投資アナリストは証券アナリスト資格を保有していないと、受験資格が得られません。

また、証券アナリストや米国証券アナリスト取得後には、
  • 転職してキャリアアップ
を目指すこともできます。

実際に、ビズリーチ などの転職サイトでは証券アナリスト向けの転職情報なども掲載されています。
証券業界は平均年収が高いので、資格取得と転職により収入UPも見込めることになります。

証券アナリストを取得するメリット

証券アナリストを取得するメリットは大きく3つあります。

  • 投資知識が身につく
  • 転職、就職で強みになる
  • 次の資格へのステップアップが可能

それぞれ詳細を紹介していきます。

投資知識が身につく

証券アナリスト試験では、投資のリスクや分散投資の重要性、企業分析の方法などの様々な投資・分析の知識が必要とされます。

これらの対策をしていく中で、投資で大事にすべき考え方優良企業の見分け方が身につくので、投資をしていく上での基礎的な姿勢や知識が得られます。

転職、就職で強みになる

証券アナリスト資格は転職、就職の際に有利に働くことが多いです。
特に金融系企業の場合は、社内での運用部門への異動資産運用業界への転職の道が開けます。

また、高給で有名なM&Aアドバイザリー業務などは財務知識が必須のため、証券アナリスト資格保有者を優遇していたりもします。
実際に、ビズリーチなどの転職サイトでも「証券アナリスト」が歓迎資格になっている求人がたくさんあります。

ちなみに筆者の場合は金融畑への転職ではなかったので、少し有利くらいでした。

次の資格へのステップアップが可能

証券アナリスト資格を取得した後に、さらなるステップアップとして国際公認投資アナリストの受験が可能でになったり、米国証券アナリスト試験に挑戦することもできます。

国際公認投資アナリストを取得することで、イギリスや香港など世界各国で証券投資アドバイザリー業務を行うのに必要な資格試験を免除されたりするメリットがあります。

ですが、国際公認投資証券アナリストよりも米国証券アナリスト資格を取得することがおすすめです。

米国証券アナリストは、国際公認投資アナリストよりも権威性のある世界基準の資格として認知されています。

試験は全て英語で行われるため少しハードルが高いですが、米国証券アナリストは金融業界でのグローバルスタンダードと言える資格なので、金融業界でグローバルに働きたいという場合には、非常に良い資格です。

証券アナリスト試験の概要と難易度

試験日程

1次試験は年に2回のチャンスがあります。

◆ 春試験:4月下旬目安

◆ 秋試験:9月下旬もしくは10月上旬

続く2次試験は1年に1回の開催となっています

◆ 6月上旬

受験までにかかる費用

受験までにかかる合計の費用は以下のようになっています。
試験 / 項目 事前講座 試験費用 合計費用
1次試験
56,500円

※会員受講者:50,300円
【証券分析とポートフォリオ・マネジメント】
  6,300円

【財務分析】
  3,200円

【経済】
  3,200円
69,200円
2次試験
53,500円
【総合科目】8,400円
61,900円
詳細を紹介していきます。

まず、証券アナリスト試験の受験資格を得るために、各レベルに応じた講座を受ける必要があります。

この講座の受講年度の翌年度の春試験から証券アナリスト試験を受けることができます。
講座を受けたら即受験試験を得られる訳ではないので注意しましょう。

費用は結構高めになっており
◆ CMA1次レベル講座:56,500円(一般)
◆ CMA2次レベル講座:53,500円
となっています。

一方で、試験自体にかかる費用は少し安めです。
◆ CMA1次試験:3科目で12,700円
◆ CMA2次試験:総合科目で8,400円

つまり、1次試験は最大で69,200円、2次試験は61,900円が受験前にかかってくることになります。

1次試験について

試験科目は下記の3科目でマークシート形式です。

  • 証券分析とポートフォリオ・マネジメント
  • 財務分析
  • 経済

各科目の点数配分は下記のようになっています。

証券分析とポートフォリオマネジメント 財務分析 経済 合計 合格に必要な点
180点
90点
90点
360点
216点(6割程度)

試験時間は

  • 証券分析とポートフォリオ・マネジメント:180分
  • 財務分析:90分
  • 経済:90分
    となっています。

一度に受けると長時間の試験となりしんどいですが、2回に分けての受験も可能です。
特に『証券分析とポートフォリオ・マネジメント』は難易度が1番高いので、
1回目は『証券分析とポートフォリオ・マネジメント』、2回目は『財務分析と経済』と受けるのも良いかもしれません。

2次試験について

試験科目は下記の4科目で記述形式です。

  • 証券分析とポートフォリオ・マネジメント
  • コーポレートファイナンスと企業分析
  • 市場と経済の分析
  • 職業倫理・行為基準

各科目の大体の点数配分は下記のようになっています。

証券分析とポートフォリオマネジメント コーポレートファイナンスと企業分析 市場と経済の分析 職業倫理・行為基準 合計 合格に必要な点
210点
90点
60点
60点
420点
210〜230点
2次試験は試験時間が非常に長く、午前の部:210分・午後の部:210分の7時間に渡る試験になっています。
科目合格などがなく、1回の試験で突破しなければいけません。
体力と集中力も大事です。

証券アナリストの難易度

アナリスト試験の合格率は比較的高く50%前後です。

ただし、実際には金融機関や証券会社勤務の高学歴層が主に受験しますので、それなりの難易度があると考えるべきかと思います。

特にゼロ知識から始める場合は、『証券分析と』や『ポートフォリオ・マネジメント』でつまずくことが多そうです。

証券アナリスト合格のための勉強時間

証券アナリスト合格のための標準的な勉強時間は200時間と言われています。

平日に1時間、休日に5時間の勉強を4ヶ月弱続けることになるので、それなりに勉強するということになります。

筆者は平日が30分〜1時間、休日は3時間程度の対策時間を3ヶ月間設けていましたので、合計では120〜130時間を試験対策に費やしました。

筆者の場合は、証券分析やポートフォリオ理論などの1番対策に時間がかかる分野に関して、MBA取得時にある程度の知識を得ていたので、少なめの対策時間となりました。

独学・短期合格のための勉強法と参考書

証券アナリストの試験は1次試験はマークシートですが、2次試験は筆記となり、難易度が一気に上昇します。
したがって、2次試験まで役立つ知識を得ようとすると「何となくの理解」では不十分です。
証券投資理論をしっかり噛み砕いて理解し、それをアウトプットする力が必要になります。
深く理解し短期合格を目指すために1次試験、2次試験で共通してやるべき対策は【同じ問題をひたすら繰り返す】ことです。

実際には
  1. 問題をやる
  2. 答え合わせをして間違った問題だけ復習する
  3. わからないところはググる
の繰り返しを行います。
同じ問題を何回もやっても意味ないと思うかもしれませんが、確実に理解につながり結果的に高得点が取れると思います。

1次試験の勉強法・対策

マークシート形式での受験になりますので、基本的には難易度の高い順に勉強していくのが良いかと思われます。
難易度の高い順としては
  1. 証券分析とポートフォリオ・マネジメント
  2. 財務分析or経済
という順番になります。

財務分析や経済は単純な計算や過去の経済知識を活かせると思いますが、証券分析科目は比較的専門的な知識が必要になります。
また、証券分析で勉強した内容は財務分析でも活かすことができます。

したがって、まずは1番難しい『証券分析とポートフォリオ・マネジメント』から対策を始めるべきです。
特に、ポートフォリオ理論など関数電卓を用いた計算が必須になる分野は早めに対策をし、関数電卓の使い方まで含めて慣れる必要があります。

ちなみに関数電卓自体は安いものでも十分です。
こちらの関数電卓は、使い方などの記事がインターネット上にたくさんありますのでおすすめです。
財務分析と経済に関しては、明確な優先順位はないと思いますが、財務分析をやりつつ、飽きたら経済の対策という感じで大丈夫です。

実際に、筆者は試験対策の半分を証券分析に使いました。
また、財務分析は得意だったものの、経済に苦手意識があったので、経済を重めに対策しました。

実際の試験対策としては、基本的には【同じ問題をひたすら繰り返す】ことが重要です。 下記のTACの問題集は、様々な問題を分野別で掲載しているため、【同じ問題をひたすら繰り返す】際に便利です。
私は購入しませんでしたが、余裕があって完璧な理解を目指したい場合は、TACの総まとめテキストを購入するのもありかもしれません。
なお、証券アナリスト協会のテキストは一切開きませんでした。笑

参考書は重くて持ち歩きが大変なので、サクッと軽めの勉強をしたいときは、こちらもどうぞ。

2次試験の勉強法・対策

2次試験は、マークシートの1次試験と異なり、完全な記述式の試験になります。
また「職業倫理・行為基準」という追加科目があります。

2次試験では420点中、210〜230点程度、つまり5〜5.5割程度を取得できれば合格が可能です。

最も点数の取りやすい『職業倫理・行為基準』は60点満点が狙える教科ですので、『職業倫理・行為基準』を最初に対策して取れそうな点数の予想をした上で、 その他教科の対策をすれば、実際にあと何点取れば合格点に達するかを把握できます。

つまり『職業倫理・行為基準』から対策を始めることで
  • 証券分析やポートフォリオ・マネジメントで、諦めてもいい問題がわかる
  • 焦らずに精神衛生上健全に試験対策ができる
というメリットがあります。

また、証券分析とポートフォリオ・マネジメントは点数配分が重いものの、難易度が高くクセの強い問題が多くあり、対策が非常に疲れます。
対して、コーポレートファイナンスと企業分析に関しては、率直な問題が多く対策がしやすいです。
モチベーションを保つという意味でも、証券分析よりも先に『コーポレートファイナンスと企業分析』を対策することをおすすめします。

したがって、対策の順番としては
  1. 職業倫理・行為基準
  2. コーポレートファイナンスと企業分析
  3. 証券分析とポートフォリオ・マネジメント
  4. 市場と経済の分析
  5. 職業倫理・行為基準 (最後の詰め)
という形で進めるのが良いかと思います。
また、1次試験と同様に基本的には【同じ問題をひたすら繰り返す】ことが重要ですので、参考書はTACがおすすめです。

また、私は2次試験の前に、実際の時間配分や記述するのにどの程度の時間がかかるかを把握するために通しで過去問をやってみました。
思った以上に計算や記述に手間取ったりすることもあるので、本番で焦らないためにもお試し受験的にやるのはアリだと思います。

『職業倫理・行為基準』の攻略が大事

職業倫理・行為基準はきちんと対策をすれば9割以上〜満点の正答率が狙える科目です。
つまり、合格に必要な210〜230点のうち50〜60点を職業倫理・行為基準で稼ぐことが可能です。

職業倫理・行為基準で高得点が取れた場合、証券分析や企業分析、経済で合計150〜180点(4割〜5割程度)を取れれば合格できるので、合格の可能性がグンと高くなると言えます。

職業倫理・行為基準の条文は試験問題に添付されるため基本的には覚える必要はありません。
しかし、油断せずに
  • 穴埋め問題に対処する
  • 即解答できるようにする
  • 解答を書き慣れる
ために事前にしっかり準備をしましょう。

また、職業倫理・行為基準では、解答の際に論点を明確に示す必要があります。
例えば、「Xさんの◯◯という行為が××という観点から●条に違反している。本来、Xさんは◯◯をする代りに△△をする必要がある」のように論点を明確に記載することが大事です。

証券分析やポートフォリオ理論の問題は奇問や意図が見えづらい問題も多かったりするので、なるべく『職業倫理・行為基準』で点数を稼ぎ、合格の可能性を高めましょう。

試験中に気をつけること

1次試験、2次試験ともにタフな試験ですが、試験中に意識したいこととしては下記があります。

  • 1次試験で気をつけること
分からなくてもマークをしまくること:減点はないので損はしない

  • 2次試験で気をつけること
証券分析やポートフォリオ・マネジメントの難問は諦める判断もすること:難問や奇問があります。
分からなくても諦めずに解答を書きまくること:筆者はこれをやったから受かった気がします。

結論:短期合格に向けてやるべきこと

ここまで記載した短期合格へのポイントをまとめると下記のようになります。

上記をやっていけば、短期合格も夢ではないと思います!

また、資格取得後は

  • さらなるステップアップで米国証券アナリストや国際公認投資アナリストの資格を取得
  • 転職でキャリア&年収アップ

というような道も開かれます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

証券アナリスト試験は趣味で取るのは少しハードルが高いかもしれませんが、ファイナンス 理論やポートフォリオ理論など、実際の投資で役立つ知識がたくさん詰まっています。

FP(ファイナンシャルプランナー)や中小企業診断士、MBAとかぶる領域もかなりありますので、

  • リスクを低減する投資をする知識を得たい
  • 上記の資格を取ろうか迷っている

みたいな方はステップとして証券アナリスト資格を取るのもありかもしれません。

MBAと中小企業診断士の違いはこちらもどうぞ。

花王のSWOT分析をしてみました【SWOT分析の例】

花王のSWOT分析をしてみました【SWOT分析の例】

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花王のSWOT分析

今回は花王の分析をSWOTを中心に行っていきます。

SWOT分析の利用価値は現状分析そこから考えられる戦略の策定です。
それによってより合理的で成功確率の高いジャッジを下すことが出来るようになるでしょう。
そして、逆に言えば”成功した企業”の戦略は、当時の業界構造分析を行うことで”なぜ成功したのか”を解明することが出来ます。

ここでは昔から続く日本の大手企業である花王の分析を行いますが、その経営の変遷は非常に学びの多いものです。(※私のMBA時代に分析したものを紹介しています)

SWOTの観点から、花王がどの様に考えて、どの様に意思決定を下したことで、成功できたのかを、具体的に解説していきます。

目次

花王の企業概要:そもそも花王とはどんな会社か?

花王の概要

花王は東京都中央区日本橋茅場町に本社を置く国内大手化学メーカーであり、トイレタリー用品、化粧品、食品などを製造しています。
同社はトイレタリー業界では国内首位であり、化粧品でも国内で1、2を争う程のシェアを持つ日本のトップ企業です。

2016年現在、花王の事業内容は多角化しており、大きく分けて

  • 「ビューティケア事業」
  • 「ヒューマンヘルスケア事業」
  • 「ファブリック&ホームケア事業」
  • 「ケミカル事業」

の4つの事業があります。

花王の売上の40%を占める4つの事業の中で最も大きいのが「ビューティケア事業」です。
化粧品やスキンケア、ヘアケアなどの商品の事業で、代表的なブランドとしては、化粧品ではソフィーナ、カネボウ、モルトンブラウン、スキンケア製品としては、ビオレ、ニベア、キュレルなどが挙げられます。
ヘアケア製品では、ケープ、メリット、フローネ、アジエンス、エッセンシャルなどがあります。

「ヒューマンヘルスケア事業」は、健康機能飲料やサニタリー製品などを管轄しており、クリアクリーン、ヘルシア緑茶、パブ、メリーズパンツなどを扱っている事業です。

「ファブリック&ホームケア事業」では、衣料用洗剤や住居用洗剤などを扱っており、アタック、ハミング、ワイドハイター、バスマジック琳などのブランドがあります。

「ケミカル事業」は工業用化学製品なので一般の方にはあまり馴染みはありませんが、インクジェットプリンター用インクや、香料や油脂アルコールなどを手掛ける事業となっています。

化粧品事業に関して

ここで取り上げる化粧品事業は花王のビューティケア事業のうちの1事業です。

化粧品事業の売上は、ビューティケア事業の現在全体の約40%を占めています。(つまり全体の約16%です)
代表的なブランドが花王ソフィーナです。
これは1982年の販売開始から今なお残る自社育成ブランドです。

花王が化粧品事業に本格的に参入し、化粧品業界で存在感が出てきたのは1980年代で、この花王ソフィーナの販売開始が契機となっています。
2006年には当時花王に次ぐ国内シェアを誇っていたカネボウ株式会社の株式を取得し、同社及びそのグループ会社を子会社化しました。
これによって売上高ベースでは、国内化粧品市場は、実質的には資生堂と花王の2トップ状態になりました。

化粧品事業での成功と当時のSWOT分析

当時のSWOT分析

花王が初めて化粧品を発売したのは、1900年の化粧水二八水ですが、化粧品事業に本格参入できたのは、1982年に花王ソフィーナを発売してからです。
この花王ソフィーナは、発売年の売上高は12億円で毎年順調に増え、1986年には245億円に達し、1988年位は400億円を超え、基礎化粧品では10%を超えるシェアを達成しました。

なぜ花王のソフィーナによる化粧品市場への参入が成功したのでしょうか?
この要因をSWOT分析を通じて解明してゆきます。

まず参入当時の花王のSWOT分析を行なうと次の以下の様にまとめることが出来ます。
①Strength(強み)
1980年代当時、花王は既に日用品トイレタリーメーカーとして国内トップの企業でした。
それらの開発の過程で築き上げた研究開発技術力や、日用品のための販売チャネル・原料調達チャネルを花王は既に社内に持っていました。これらは花王の大きな強みです。

花王は参入当時から国内トップの資生堂に十分対抗できるだけの事業規模を持っており、その日用品メーカーとして長く培ったドラッグストアなどの日用品販売チャネルの強みや、原料調達チャネルは、競合にとっては模倣コストが比較的大きいため、競争優位の源泉となりえたと考えられます。
また化粧品に関しては研究開発を積み重ねており、化粧品基材の開発も既に完成さていました。

②Weakness(弱み)
一方、当時の花王は日用品トイレタリーメーカーのイメージが強く、化粧品に関してはブランド力はありませんでした。
「美しくなる」事が重要とされる化粧品において「華やか」なイメージは非常に重要だったのですが、その点については大きく後れを取っていました。

③Opportunity(機会)
機会としては、化粧品市場の成長が挙げられます。
化粧品市場は、戦後の生活の欧米化や女性の社会進出に伴い、急速に伸びていました。
その伸びは1970年代に入っても続き、1980年には成長は鈍化するものの依然として伸び続けており、非常に魅力的なマーケットでした。

④Threat(脅威)
脅威としてはやはり競合の脅威が挙げられます。
当時は資生堂やカネボウが化粧品のトップブランドとしての地位を確立しており、華やかなブランドイメージを持っていました。


この状況下で花王がどのような戦略で化粧品事業への参入に成功したのでしょうか。
この分析を見る限り、競合の強さに対して、真っ向勝負では苦戦を強いられることが予想されます。
しかし、花王は化粧品市場で活かせる強みは持っていました。

花王の事業戦略(化粧品事業への参入)

ThreatとWeaknessを理解し、Strengthを活かした戦略

花王はこの状況下にて独自のブランド基礎化粧品「ソフィーナ」を開発し、化粧品事業へ本格的に参入し、成功を納めました。
この際、花王のとった戦略は差別化戦略です。

花王ソフィーナは、従来の化粧品の一般的な考え方であった「化粧品によって美しく変身する」ことではなく、肌にとって刺激になる物質を除いて、肌そのものの機能を高める化粧品を志向し、競合他社との差別化を図りました。
つまり花王はソフィーナを、従来の化粧品ブランドの主流であった”華やかさ”での勝負を避け、強みである技術を前面に出し、商品の機能を強調して基礎化粧品の分野に進出したのです。

例えば、テレビコマーシャルにおいては資生堂やカネボウは女優を使って華やかなイメージを顧客にアピールしていました。
一方、花王はあえて女優を使わず、卵の表面にファンデーションを付け、リキッドファンデーションとパウダーファンデーションを重ね塗りした方が、綺麗につくことを遡及するといったコマーシャルを放送しました。

これは逆に、華やかなブランドイメージを持たない花王だからこそ出来るものであり、既存の華やかなブランドイメージを持つ資生堂やカネボウなどの競合他社にはブランドイメージからも真似できない戦略でした。
そしてこの戦略が見事にハマり、花王は化粧品市場に大きく食い込む事が出来たのです。

用意されたStrength

また、花王は単に日用品メーカーとしての技術力があるだけではなく、化粧品事業の本格参入前から実は研究開発を積み重ねてきていました。

具体的には花王は1968年にバイヤスドルフ社(独)と提携して化粧品技術研究開始しており、その後1976年に皮膚研究室・医薬品研究室を開設、1978年には化粧品新基材の開発をしています。

これらの下準備があったからこそ、開発された「ソフィーナ」は従来の化粧品とは一線を画すものとなり、他社とは異なる差別化戦略が取れたと言えます。

持続的な技術の優位性

そして、この技術の優位性を維持し、参画後も持続的に技術の優位性を保てる強さがあったことも成功の要因です。

花王は「ソフィーナ」を日用品メーカーとして培った技術力と結びつけ、さらに改良し続けることで優位に立つことが出来ました。

具体的には、花王の生物化学研究所は「セラミド」が皮膚の保湿に重要な役割を果たしていることを発見し、同社のスキンケア研究所は、この知見を元に、セラミドをスキンケア商品に配合した新商品を考案しました。
しかし、セラミドそのものの生産は技術的に確立されておらず、また天然のセラミドは存在量が少なく高価で、化粧品生産への安定供給は困難でした。

そこで素材開発研究所で、コンピュータ・ケミストリーによる分子設計技術を用いてセラミドと極めて性質の似た物質「スフィンゴリビットE」(SLE)の量産を実現しました。
これにより、花王は1987年にSLEを配合したクリームを「ソフィーナ」ブランドで新しく発売することができたのです。

このような研究開発の連鎖は、日用品メーカーとして培った研究開発力があってこそ実現できたものでした。
これは他の競合他社では再現することの難しい、まさに非常に大きな強みとなっていたと言えます。
(VRIOの点から見ても、「価値があり、希少で、模倣されにくく、組織として活用できる」経営資源であると言えます)

まとめ

過去の事例分析を通して要因を学ぶ

花王の化粧品事業への参入が成功したのは、化粧品市場の拡大という機会の中で、競合と弱みとなる部分での勝負を避けて強みとなる部分を活かし、既存の大手競合と差別化をすることによるものだと言えます。
そして、そのために事前に自社の強みを強化して用意していたことと、その強みが他社には簡単に真似できず、継続して優位に立てていた事も成功の要因だったと言えるでしょう。

いかがでしたでしょうか。
今回は花王の化粧品事業への参入と成功要因を、SWOT分析を用いて解説しました。
私のMBA時代(2016年頃)に分析したものですが、過去の事例を分析することで、花王の戦略の変遷や意思決定の軌跡を追うことができました。

フレームワークは本で説明を読むとなんとなくわかった気分になったりできると思います。しかし、本当に使いこなすにはやはり具体例に触れることや、自分で実際にやってみるのが一番ですね。

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