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データサイエンスで広告効率を劇的に改善させた話

データサイエンスで広告効率を劇的に改善させた話

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目次

 私の実績紹介を兼ねて、データサイエンスのアプローチから広告効率を劇的に改善させた話について書いてみました。守秘義務の都合上、顧客を特定できない様に内容を伏せておりますが、全て私の実話に基づく経験談となります。

 なお具体的にどんなデータ分析手法を使ったのか?というよりは、どんな役割を果たし、どんな問題を解決してきたのか?というポイントを中心に書いていきます。

<顧客Z社>

 この話で出てくるZ社は従業員数約20人程の企業で、年間売上は1億円位の中小企業です。元々社長が知人であり、私がマーケティングアナリスト(データサイエンティスト)として仕事をしている事を知ってご相談いただいたのがキッカケで、主にWebマーケティングでの集客についてご支援させていただくことになりました。

<当時の状況>

 Z社の広告費予算は年間500万円程、しかし社内にマーケティングの知見がある人は居ないため、広告運用業者に運用を任せていました。方針としても、とりあえずホームページを作ってネットで売上を立てていきたいという戦略はあったものの、代理店に任せっきりな状態でした。

問題点①:マーケティングリテラシーの欠如

 実際に携わらせていただいて、まず問題に思ったのは「代理店から送られてくる資料や提案を正しく判断できる人がいない」という事でした。

 広告代理店には広告運用に必要な設定やクリエイティブの作成などを行ってもらっていました。また運用結果も週次、月次でもらっていました。ですが、広告代理店から出されるそれらの数字が、どんな意味があるのかを全く理解できる人がいなかったのです。つまり、広告代理店の運用が全く上手くいっていなかったとしても、失敗していたとしても気づくことが出来ない様な体制でした。

 そのため、まずはZ社の担当者の方や社長に、Z社のビジネススキームに即して、最低限どんな指標を見ていくかを、専門的な知見が無くても分かる様にお伝えさせて頂きました。

問題点②:広告運用業者とZ社の考え方の違い

 広告運用業者は基本的には、「広告の運用」に責任を持ちます。そのため、「広告をしっかり運用して売上を最大化する事」にしばしば焦点が当てられます。しかし、一方で会社にとっては広告はあくまで手段の1つに過ぎず、会社全体の利益の最大化が最も重要になります。そのため、広告での売上を最大化すること(局所的な最適化)が実は会社全体の利益の最大化(全体最適化)になっていない、という事はよくあります。

 ただし、これは広告運用業者が悪い、という訳ではありません。利益には、単価や原価など様々な要因が関係しており、広告運用業者がそこにまで口を出せるパターンは少ないです。(会社側がそこまで情報を渡していない事も多い)そのため、広告運用業者には分からない全体最適化に関わる様な部分については、会社側が十分に把握し、その上で広告運用業者を上手く使っていく必要があるのです。

 実際にZ社のケースでは、具体的には詳しく見てみると次のような事が起こっていました。

・広告予算は月別で30万円と設定。(売上逆算)
・運用業者は、その月の予算を使い切るために効率的ではないキーワードにまで出稿していた

 Z社にとって広告予算は何か理由がある訳でもなく、ザックリと決められていました。それに対して運用業者は、依頼を遂行するためにその予算をキッチリ使う様に努力します。ですが、これが本当に会社の全体最適化になっているでしょうか?

 詳しく見てみると予算30万円のうち、20万円程度は効率の良いキーワードに対して出稿されていました。ですが、残りの10万円はもう効率の良いキーワードに出稿する余地が無かったため、少し関連度の薄いキーワードに対しても出稿がされていました。

 確かに関連度の薄いキーワードでも顧客化できる可能性はあるため、”売上の最大化”のためであれば正しい選択です。ですが、実際には”少し関連度の薄いキーワード”の部分については実はROI(投資収益率)を計算するとマイナスになっており、この広告は会社の利益最大化のためであれば出稿しない方が良かったのです。

 特に検証目的であったり、利益を減らしてでも売上を増やしたいという戦略を取っていた訳では無かったため、この非効率な部分の広告費の削減を提案し、他の施策等への投資へとご提案致しました。

問題点③:正しくPDCAが循環していない

 これが最も大きな問題でした。Z社では現状を分析して次のアクションにつなげていくというサイクルが全く出来ていませんでした。

 広告運用業者からは運用結果の報告があり、またZ社としても売上実績を見て「良かった」「悪かった」といった結果を見てはいました。ですが、結果を確認するだけで、良かったら運用業者が褒められて終わり、悪かったら運用業者が何かアイディアを出して新しいやり方を試す、といったサイクルで行われていました。

 ここで問題なのが「何が悪かったのか?」「何が良かったのか?」を分析する様な事は誰も一切していなかったことです。

 そもそも悪かった原因を探らないのは論外です。原因が不明なままでは、新しいやり方で上手くいくかどうかは、たまたま上手くいく可能性もありますが、博打の様なものです。また悪かった原因が実は広告の問題ではなく、たまたまマーケットの状況が悪化していたという可能性もあります。その場合、本当は上手くいっている運用のやり方を変えてしまい、かえって悪化してしまう事もあり得るのです。

 また良かった場合に、結果を確認して終わりというのは非常に勿体ないです。良かった原因を探り、何が効率的なのかを正確に把握する事で、「今後も変えてはいけないこと」が分かります。ですので、新しいことを試すにしても、これを把握しているかどうかでは成功率には雲泥の差が出ます。また、効率的だと分かった事から類推して、「これも効率的なのでは?」といった単なる勘とは違う、ある程度根拠に基づいた仮説を立てられるようにもなります。

 そのため、Z社の中で私はPDCAサイクルを正しく循環させるように支援させていただきました。

 新しくキーワードやメニューを設定する際には、それを検証するためにはどの程度の検証期間が必要で効率的だと判断できる水準、つまりKPIはどれくらいか?といった提案をさせてただきました。
 また運用実施後には運用データに対して、正しく集計・分析を行い、時には統計検定を用いて一時的なブレなのか真実なのか?といった判断も加えながら仮説を検証し、何が効率的で、何が非効率なのかを一つ一つ明らかにしてゆきました。
 そういったPDCAサイクルを繰り返しながらZ社に伴走支援させていただき、実際に2年程経った頃には以前と比較して広告による顧客の獲得単価が500%改善、つまり当初比で1/6になっていました

余談:Webマーケティング業界について

 Webマーケティングが出来る人というのは一言で言っても色々な人がいます。魅力的なクリエイティブやホームページを作るのが得意な人もいれば、私の様なデータサイエンティスト(マーケティングアナリスト)もいます。

 広告運用は設定自体はかなり簡単で、ある程度のPCリテラシーがあれば実は誰でもちょっと勉強すれば運用自体は可能です。専門的なスキルが必要になるのは、「Webマーケティングの知識」と「クリエイティブ力」と「分析力」になります。

 日本の現在の市場では、クリエイターは給与水準が非常に安く、逆にアナリストの様な人種は市場価値が高く労働単価も高いのが現実です。
 またマーケティングの分析は特に、業種・会社ごとにイレギュラーが多く、その会社のビジネススキームを正しく理解していないと間違った分析・見解になってしまう事も多々あります。そのため、マーケティングのアナリストにはビジネス理解力に加えて、パターン化できない場合にも要因を構造的に考えて対応できる様なロジカルシンキング力が必要です。これらの能力が高い人材は様々な業種で必要とされるため、結果として「質の高いアナリスト」は非常に市場価値が高くなります。(日本国内を出られれば年収1000万を超えるケースも珍しくありません。)

 このような状況を踏まえると、実は広告運用業者の多くはクリエイティブ力が十分なことは多いのですが、真の意味で「質の高いアナリスト」を必要な数だけ確保できている場合はかなり稀だったりします。実際のところ広告運用代行自体の相場が現在かなり低く、そのためか働き手となる社員やフリーランスも普通のアルバイトの最低賃金と大して変わらない報酬で募集されていたりするので、それでは質の高い人材を集められないのも無理はありません。とはいってもこれだけ相場が崩れていると、価格を上げて質の高いサービスを・・・というのもなかなか難しいのです。(そもそもアナリストの重要性自体があまり顧客に認知されていないため、結局価格で判断されてしまうというのもありますが・・・。)

 ですので運用自体やクリエイティブに関しては基本的にはちゃんとした広告運用会社に任せても良いかと思いますが、しっかりPDCAサイクルを回してどんどん最適化するなら、Z社の様にアナリストを多少費用が掛かっても別途用意しないといけないではないかなというのが手前味噌ではありますが私の個人的な見解です。

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経営学は特にデータサイエンスの解釈の幅を広げる重要なスキルなので、データサイエンティストを目指すような方にも読んでもらえるといいかもしれません。

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